イネーブルメント
Feb 12, 2024

ABMの成功に不可欠なアカウントプランとは?

テクノロジーの進化に伴いできることの幅が広がっているABMですが、単純に特定の企業に対して施策実行することがABMではありません。この記事ではABMの必須要件であるレベニュー組織間連携においてキーとなるアカウントプランニングについて紹介します。

マーケティングテクノロジーの進化に伴いできることの幅が広がっているABMですが、単純に特定の企業に対して施策実行することがABMではありません。この記事ではABMの必須要件でありレベニュー組織間連携においてキーとなるアカウントプランニングについて紹介します。

アカウントベースドマーケティング(ABM)とは?

アカウントベースドマーケティング(ABM)は、戦略的に決定した特定の企業や組織に対して、レベニュー組織で連携を図りマーケティング施策を展開する戦略的なアプローチです。従来の広範囲のターゲットオーディエンスに向けて一般的なメッセージやキャンペーン実行でのリード獲得やデマンドジェネレーションではなく、戦略的重点顧客に対して個別にパーソナライズされた購買体験を提供することに重点を置いています。

マーケティングテクノロジーの進化に伴い、できることの幅が広がっているABMですが、単純に特定の企業に対して施策実行することがABMではありません。レベニュー組織を中心に組織全体で取り組んでいくことがABMの必須要件です。ここからは、その組織間の連携において肝となるアカウントプランについて紹介していきます。 

アカウントプランとは?

アカウントプランとは、戦略的重点顧客に対して戦略的に顧客獲得・取引深耕を図っていくために、レベニュー組織で取り組むことに合意した顧客ごとの計画です。戦略的重点顧客は既存の取引拡大余地のある顧客であることもあれば、これから新規に戦略的に開拓して育てていく対象であることもあります。

アカウントプランの対象

よくアカウントプランというと、営業が作成し計画を推し進める取組みとして捉えられることも多いのではないでしょうか。Gartnerの調査によると、実際に営業責任者の多くは、戦略的重点顧客からの収益向上を狙うこの取組みにおいての鍵は、優秀な人材を営業担当者として配置することであると回答しています。一方で、戦略的重点顧客を任される営業個人は、社内の個人的な関係性を活用した同僚との連携に依存しているという回答が8割近くを占めています。"組織的に"ではなく、"個人的な"人脈に依存してしまっているということです。

Gartner - (Re)building Key Account Programs for Growth

 なにもかもを、営業1人で対応できるということはありません。戦略的重点顧客の新規獲得や取引拡充においては、営業任せにするのではなく、組織的に社内のリソースを有効活用できるようにしていく投資の覚悟をすることもこの取組みの成功においては鍵です。部門横断でのコラボレーションが高い組織の方が、戦略的重点顧客からの売上が215%増加するという調査結果もあります。営業が1人で、または、時には営業マネージャに頼りながら戦略的重点顧客に対してやるべきことをやっているという組織よりも、営業がマーケティングやインサイドセールス、コンサルティングチームやカスタマーサクセス、サポートチームなどの部門を横断しながら、組織的に戦略的重点顧客を支援し、戦略的に動いている組織の方が、戦略的重点顧客から得られる支出額が大きくなるということです。

アカウントプランニングの重要性

アカウントプランでは、戦略的な戦略的重点顧客を深く理解し、顧客のパートナーとして、組織的に顧客との取引深耕を図っていくことによって、顧客への価値提供とその結果としての売上拡大を実現します。上述の通り、レベニュー組織は当然のことながらエグゼクティブのスポンサーシップを含めた組織的な協力が不可欠となり、そのための組織内の認識合わせや計画の第一歩としてアカウントプランが必要になります。 

効果的なアカウントプランによる価値の例としては下記を想定しています。

  • 戦略的重点顧客の戦略的特徴や課題、ニーズを組織全体で明確に把握できる
  • 戦略的重点顧客の価値や潜在的な機会を最大限に引き出すための戦略を立案できる
  • 営業とマーケティングなどレベニュー組織を中心とする関係部門の戦略的な連携が図れる
  • プランに基づく活動の結果として、戦略的重点顧客への生産性や顧客満足度を高められる
  • 戦略的重点顧客の将来的な成長可能性を見据えたロードマップを作成できる

 本質的かつ効果的なアカウントプランによって、自社及び顧客に価値をもたらすことが可能です。

アカウントプランの手順

アカウントプランの第一歩は、対象とする戦略的重点顧客の選定です。アカウントプランを作成し、アカウントチームを組成しながら戦略性をもって開拓していくべき対象顧客はどれか?を決定します。その上で、営業またはカスタマーサクセスが中心となって、顧客を調査し、アカウントチームとしての計画を策定した上で、アカウントプランセッションで組織的に合意をし、アクションを実行します。この第一歩となる対象企業の選定において、多くの場合「現在の既存取引規模が大きい」「企業売上規模が大きい」「取引年数が長い」ということのみを理由に安易に選定されることがあります。この選定方法は、アカウントプランがうまくいかない理由の1つになっています。営業組織で担当営業に選定を任せると思い入れの強い大口顧客をノミネートすることも多いでしょう。しかし、現在の売上や企業規模を重視しすぎて戦略的な整合性が相対的に低い企業を選んでしまうと、コストやリソースをかけたが成果は上がらないということになってしまいます。

 戦略的な戦略的重点顧客を担当する営業は、ケースバイケースですが既存顧客のみを担当している場合にはおよそ8社程度を担当し、そこからの売上拡大に向けて社内外のリソースを有効に活用しながら、与えられた領域で最大の成果を上げることが求められ、そこに全力投球をしていきます。それが仮に戦略的にフィットしていない領域に実施しているとなると、リソースの無駄使いということになってしまいます。アカウントのセグメントや選定基準についての詳細はこの記事では割愛しますが、戦略的重点顧客にリソースを割くという意思決定は極端な表現をすると、同時に、戦略的重点顧客としない顧客に対してのリソースをそれほどは(戦略的重点顧客ほどは)割かないという意思決定でもあります。戦略的重点顧客に対してのヒトやカネの投資に加えて、他に投資しないことによる機会コストも発生するという理解で、安直ではない戦略的重点顧客の選定が必要です。

アカウントプランにおける営業組織の役割

アカウントプランを成功に導くには、営業組織が中心となって積極的な役割を果たすことが不可欠です。まず、顧客の事業戦略や課題を深く理解し、アカウントチームは顧客の公開情報や対話を通して、顧客の事業目標、組織構造、意思決定プロセスなどを把握し、顧客の視点にたったプランニングを進めていくことになります。 

次に重要なのが、対象アカウントの調査及び計画の策定です。営業組織はカスタマーサクセスと連携し企業のビジネス戦略、自社が価値提供できる領域の戦略、アカウントとの組織図や接点状況、今後のアカウントに対するビジョンを整理し、中期的及び短期的なロードマップを作成します。この内容をアカウントプランセッションの場で共有し、組織的に合意をした上で、レベニュー組織で連携を図りながら活動を実施していきます。

アカウントプランセッションとは

アカウントプランセッションは、半期などのサイクルで実施される組織全体でのアカウント戦略共有の場です。計画は作成しただけだと絵に描いた餅となってしまいます。企業規模によっては社長、または事業責任者を筆頭に、マーケティング責任者、インサイドセールス責任者、戦略的重点顧客を担当する営業組織及びカスタマーサクセス組織、プロダクトオーナーが参加し、作成されたアカウントプランについて議論します。アカウントチーム以外の視点も取り入れ、組織的にアカウント攻略に向けた活動計画をブラッシュアップするとともに、アカウントチームはチーム外からの必要な支援について組織にリクエストします。

 アカウントプランセッションは半期などのサイクルでの実施となりますが、レベニュー組織のマネジメントラインとアカウントチームは四半期や月次、アカウントチームでは隔週や週次、営業とインサイドセールスはリードアプローチについて週次で密に会話を実施しながら、アカウントに対するビジョン実現に向けて進捗を共有し合いながらそれぞれの役割を実行します。

アカウントプランの内容

アカウントプランを初めて開始する組織や、経験の浅い営業組織の場合には、予めフォーマットを定めた上で作成していくことが望ましいです。では、どのような内容をアカウントプランセッションで共有していくのか、サンプルを紹介します。

|アカウントプロファイル

対象企業の業績のトレンド、戦略やイニシアティブ、アカウントチームの想定する仮説などアカウント概況の重要な要素をまとめます。アカウントプランセッションでは短時間で多くのステークホルダーに共通理解を持ってもらった上でディスカッションしていくため、パッと見て関係者がすぐに理解できるようにしていきます。

■ 数年の売上や利益の推移

複数事業あるケースや対象が企業グループである場合には、主要企業や事業毎などの業績推移を経年で把握できる情報

■ ビジネス戦略

公開情報や営業・カスタマーサクセスが把握している最新の戦略

■ □□戦略(例:自社が人事システムを提供するベンダーである場合は「人事戦略」)

自社が貢献できるエリアの公開情報や把握している最新の情報

■ 貢献できること

顧客の中長期的や短期的な戦略に対して、貢献できることを仮説を含めて記載していきます。保守的になりすぎずに、様々な観点からアイデアを出していきます。戦略的重点顧客であることを踏まえると、大きな取引獲得に向けて個別のカスタマイズしたサービス開発を行うなどもできる可能性があります。顧客の戦略をパートナーとしてどう支援できるかという視点で考えていきます。

|ステークホルダーと役割

対象企業の組織図及び接点状況を可視化します。ウェッブサイトにある組織図を貼るだけで終わらせるなどではなく、全体を把握した上でどの部門の誰を開拓していくことがアカウントプラン実現に繋がるのかを整理していきます。

■組織図

対象企業全体の組織図から、自社が取引深耕を図るにあたって、どの部門との接点獲得が重要かを明確化します。

■接点状況

上記で対象とした部門の取締役配下をバイネームで組織図化し、接点状況(有無や開拓の必要性)、自社との関係性(スポンサー、要関係構築、エネミーなど)、意思決定への関与レベルを一覧でわかるように可視化します。

■マネジメント接点の推移

経営層や管理職層との接点数(人数)を経年で把握します。戦略的重点顧客にもかかわらず、接点も売上も増えていないとなる場合、急転直下で競合に大規模リプレースされてしまうリスクがあることを認識する必要があります。

|ビジョンと中期計画

対象企業との取引におけるビジョン及び数年後を見据えた取引計画を作成します。

■ビジョン

中期的にこのアカウントとの関係性をどのようなものにしていきたいのかを定めます。これは顧客の戦略を実現するためのパートナーとしての視点で考えることが望ましいです。例えば、「ABCDEホールディングスとの取引を3年以内に50億円に成長させ、当社売上上位トップ3以内のアカウントに育てる」というのは内向きであり単なる自社視点の野望です。「ABCDEホールディングスのDX人材育成の戦略的パートナーとして、3年以内にグループ企業含む2,000名のデジタル推進人材の育成を実現する」など、戦略的重点顧客が掲げている戦略を意識して、当該企業のエグゼクティブと自社のエグゼクティブ間でも「我々の関係性はXXX(ビジネス戦略)を実現するためのパートナーですよね」と会話できるようなものを掲げるべきです。顧客の戦略に、自社が提供できる価値やそのマーケットにおけるインサイトを提供し、顧客のステークホルダーが組織戦略を打ち出すことから支援している場合には、戦略的重点顧客との取引拡大可能性は高まる傾向にあります。

■中期計画

製品・サービス毎に現状の取引規模やこれから数年後にどの水準に取引拡大することを目指しているのかを明確化します。また、これまでの製品・サービスの導入の推移を時系列で把握し、どのようにペネトレーションを進めてきているのかを把握できるように整理します。この中期計画の数字が、保守的すぎず非現実的すぎないものにできるように、ストレッチゴールとしての計画になるようアカウントプランセッションでフィードバックを得ます。

|短期的な計画

中期ビジョンを実現するために、まず今期なにを実行していく必要があるのか、短期的な計画を策定します。

■計画

経常で得られている売上、現在の商談金額や内容、計画達成のために作成すべき商談金額、新規作成すべき商談金額をどういう内容で見込んでいくのかの具体的な計画を作成します。アカウントプランセッションで組織から客観的フィードバックを得ながら、新たなアイデアを取り入れ計画を肉付けします。

■競合状況の把握

計画を実現するためにリスクとなりうる要素としての競合状況を整理します。その際には、単に競合企業を整理するだけではなく、顧客の優先度が高い事項を踏まえて、自社が提供できる価値と競合が提供できる価値を四象限で整理しておくことが望ましいいです。自社視点の価値ではなく、戦略的重点顧客が目指す方向性を踏まえた際に何が重要かという観点で整理することがポイントです。

|体制

戦略的重点顧客攻略における自社の体制を整理します。アカウントプランセッションの中で追加すべき人員が出てくる場合にはアップデートします。

■アカウントチーム

営業、カスタマーサクセス、インサイドセールス、サポート担当などこのアカウントを担うチームが誰で構成されているのかを整理します。

■バックアップ体制

マーケティング組織、アカウントチームのマネージャ、製品スペシャリスト、エバンジェリストなどアカウントチームを後方支援する人員体制を整理します。

■スポンサー

経営層の中で、このアカウント戦略をバックアップする取締役は誰なのかを整理します。

■アドバイザー

顧問、社外取締役、業界団体の理事など、アカウント攻略を外部の立場からアシストしてくれる体制がある場合に整理します。

|アクションプラン

戦略的重点顧客に対して、上記体制でいつ、誰がオーナーシップを持ち、何に取組むのかを落とし込みます。まだ要接点のコンタクトのリードが少ない場合には、マーケティング部門とアカウントチームで連携して戦略的重点顧客企業グループ向けのプライベートイベントの開催を企画したり、営業部長と営業がオーナーシップをとり点在する契約をバルクの包括契約に取りまとめるための取締役への提案・交渉を担うなど、具体的なアクションアイテムを計画していきます。アカウントチームで作成したプランに追加すべき内容がアカウントプランセッションで発生する場合には、オーナーを決めて計画に追加します。

|会社へのリクエスト

戦略的重点顧客攻略にあたって、アカウントチームのみでは解決できない事項も発生し得ます。例えば、パートナー企業からのトスアップ案件において、パートナー企業のスキル不足により、直販商談同様にアカウントチームのリソースがかかってしまっているような場合には、会社へのリクエストとしてパートナーイネーブルメントの強化を依頼するなど、アカウントチームが生産性高くアカウント攻略に励むために必要な支援をリクエストし、アカウントプランセッションの場で会社の方針を確認したり、要検討となる場合にはオーナーシップを明確化します。

まとめ

ABMの実践はレベニュー組織で共通の認識を持ち、組織的にリソースを投下して計画的に実行していくことが必要です。ABM戦略がうまく機能していない、アカウントプランは毎年絵に描いた餅で終わっているというような場合、アカウントプランの対象選定や取組み方についてこの記事の内容を参考に取組み方を改めて考えてみていただけるとよいかもしれません。

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